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●カウンセラーのつぶやき● ~カスタマーハラスメント(カスハラ)は構造が複雑~

パワハラの研修や講演の依頼を、以前にも増して受けることが多くなってきました。
その中でも最近は「カスタマーハラスメント」(以下カスハラ)に関する内容が確実に増えてきています。
背景には、2023年9月に精神障害の労災認定「業務による心理的負荷評価表」の見直しが行われ、カスハラが「具体的な出来事」の項目として新しく追加されたこともあります。そもそも、この心理的負荷評価表とは「認定基準の対象となる精神障害を発症する前のおよそ6ヶ月の間に『仕事を理由とした強い心理的負荷』が認められるか?」との判断をするためのものとなります。その具体的な出来事として「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」としてカスハラが追加されました。また、パワハラについても、厚労省が掲げる「パワーハラスメント6種類」と、性的指向・性自認に関する精神的攻撃などが「心理的強度を判断する具体例」に明記されました。
他にも、具体的出来事には、「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」という項目も追加されることになりました。
(参考資料:精神障害の労災認定パンフレット:https://www.mhlw.go.jp/content/001168576.pdf

こういったことを受けてここ最近、カスハラは、改めて注目をされてきています。しかしながら、カスハラは、単なる顧客と職員のもめごととして対応できるものではありません。まずは、しっかりカスハラの構造を抑え、対策を行う必要があります。カスハラの構造ですが、単なる顧客と職員との間で起こる単純な個別の問題ではありません。一見、顧客からの理不尽なクレームに対応する職員との問題ととられがちですが、実はもっと複雑です。なぜなら、顧客と職員のもめごとは、職場で起こっているからです。カスハラは大抵の場合、顧客と職員との間においてセクハラやパワハラ、モラハラというようなハラスメントが起こることから始まります。最初は、顧客VS職員という形が、「ここの責任者を呼んでくれ!」と言われた瞬間にいつしか職場全体の問題になるのです。それこそが、カスハラの対応を難しく複雑にする所以です。なぜなら、職員は、職場からすると従業員として労働契約を行っています。よって、職場には、従業員を守る「安全配慮義務」があります。顧客側は、会員制やなんらかの形で職場と利用契約を結んでいることになります。カスハラの起こる構造は、職場と労働契約を行った従業員が、職場と利用契約を行った顧客にサービスを提供するところに対して理不尽なクレームを受けることでカスハラが起こります。そして、職場は、個人的(個別的)な対応ではなく、職場としての対応が求められることになります。顧客と職員の問題を職場が対応するということになります。

そのためには、顧客と職員の間にどのようなことが起こっているのかを職場は知る必要があり、そこでその問題がセクハラなのか?パワハラなのか?モラハラなのか?どのようなハラスメントが起こっているのか?をジャッジできるようになっている必要があります。起こっているハラスメントがどのようなものかを理解するためには、セクハラやパワハラだけわかっていればいいというものではなく、職場で起こり得るハラスメントを理解しておく必要があります。

個別の事案もさることながらカスハラを起こさないためには、職場のトップがカスハラを許さないという毅然としたトップメッセージが必要です。最近では、組織や職場のトップがカスハラへの基本方針や基本姿勢を明確にし、トップメッセージとしてHPなどで示していることも増えています。そこには、職場として職員を守るという基本方針、やカスハラに対しての基本姿勢、そして職員の在り方を明確にしています。同時に職員に対しての周知も徹底しています。このように組織のトップが外部の顧客へしっかりとトップメッセージを表明することはとても大切なことになります。また、カスハラ顧客に遭遇して戸惑うことがないように、現場対応の手順やどこの誰と連携して対応するのかなどの対応マニュアルを策定しておくことは非常大切です。職員にとって、対応マニュアルも大切ですが、それ以上に気兼ねなく相談できる相談窓口設置です。
相談窓口には、男女からなる複数の相談役や職場側、職員側などが対応し、カスハラを受けた職員が一人で抱え込むことなく相談できるようにする必要があります。ただし、ここでも個人情報の取り扱いには注意しなければなりません。さらには、産業医や公認心理師、臨床心理士、産業カウンセラーなどの専門家と適切に連携して、職員にトラウマが残らないようにすることも大切です。

セクハラやパワハラは、行為者と被害者という1対1の関係性の中で起こるものでしたが、カスハラについては、
行為者(顧客)と被害者(職員)を職場が守るという複雑な構造になっていることを理解してください。

カスハラを引きおこす顧客からのクレームですが、正当なクレームと理不尽なクレームは違います。正当なクレームは、サービス提供者のサービス向上のために行われる有益な情報のことを言います。正当なクレームには、言われた方も職場も誠意ある対応が基本的姿勢として求められます。しかしながら、理不尽なクレームは、カスハラの発端となります。理不尽なクレームとは、社会通念上許される範囲を超えており、職員や職場、それ以外の他の顧客等にも多大な損失を招く行為や言動です。これには、毅然とした対応が必要となります。この理不尽なクレームとは、どういうものなのでしょうか?

① 顧客の要求内容に妥当性があるか?
顧客の要求内容の妥当性とは、顧客からクレームを受けた場合、事実関係を確認した上で「こちらの提供したサービスに過失が認められた場合」や「クレームの根拠となる事実に真実性があってクレームをすることが適していること」となります。

② 要求を実現するための手段・対応が社会通念に照らして相当か
顧客からの要求内容に一定の妥当性があるとしても、長時間に及ぶ説教や、職員に対する暴力・暴言・土下座の要求などが行われた場合、社会通念上相当ではないと判断できます。正当なクレームには誠実に向き合う必要がありますが、理不尽なクレーム(カスハラ)は断固拒絶する必要があるため、客からの要求内容をしっかりと見極める目が必要になります。その目は、一人ではなく複数で見極める方が偏りなく見極められるため、カスハラは、複数人で対応することが望ましいです。

店や企業は、サービスや商品を顧客に提供し、顧客はその対価としてお金を支払う関係性が成立していれば、店と顧客とは対等な立場であるはずですが、残念ながら、色々な情報が簡単に手に入る現代においてもなお、一定数の割合で「客は、お金を支払っているので尊重されるべき」や「店や企業は顧客の要求を飲んで当たり前」、「自分の考えや主張は間違っていない」という感覚を持っている人がいる限り、カスハラはなくなることはありません。そして、このような理不尽なクレームの対応が面倒なため、顧客の要求をそのまま受け入れてしまうことによって問題が大きくなったり、理不尽なクレームによって、売上が低下したりする事態を避けるため、顧客の言うままに返金したり、職員が顧客から長時間怒鳴られる様子を見て見ぬふりをするような「その場しのぎの対応」は、職員が職場への不安を募らせることとなり、また、働く環境の安全配慮を欠くことになります。このようなカスハラに対して、職場側が毅然とした対応をしないために、顧客の要求がエスカレートしたり、顧客のストレスの発散方法の一つとなり、他の企業に対しても同じことを繰り返すようなことになりかねません。正当なクレームには、誠実に向き合い、理不尽なクレームには、毅然とした対応ができるように職場のトップは、
日頃からカスハラに対する基本方針・基本姿勢を明確にして、職員に周知し、対応マニュアルなどは必要事項を整理して、カスハラ顧客への対応手順を日常的に明確化しておきましょう。

公認心理師・産業カウンセラー
    大槻 久美子

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